2013年7月10日水曜日

それでも不屈の精神を

 POSが燃えた。
 POSが燃えて、船が盗まれた。
 ログインした直後、そこには、ぽっかりあいた虚無だけが残っていた。

 私の作った採掘艦4隻。
 私の作った輸送艦1隻。
 私の作ったサルベージ艦1隻。
 私の作った戦闘艦1隻。
 私の作った探査艦1隻。

 私の作らなかった艦船、3隻くらい。

 ああ。
 なんということだろう。

 ポッドの溶液が、失意と恐怖でその温度を急激に下げたように感じる。

 逃げるようにしてOPへジャンプを繰り返す。
 System 内には私と真雪しかいないけれど、何者かに追われるような、不気味な感覚が肌を覆う。

 OPに入って、ぐったりと艦長室のソファに横になる。
 いったい、これからどうすればいいのだろう。

 真雪などは魂が抜けたような表情で、うつろに虚空を眺めている。
 私たちが戦闘で使っている艦船は無事だが、失ったものは多い(気がする)。

 おそらくはWHからの侵入者がこぞってPOSを襲撃したのだろう。
 なんという不注意。
 なんという無防備。

 POSにそれだけの艦船を停泊させたままにしていたのは、すべて私の失策だ。

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 ふと Ship ハンガに目を移す。

 ああ。

 この期におよんで、まさか。

 なんということだろう。

 採掘艦が2隻、出来上がっているではないか。

 装備も一式、ころがっているではないか。

 Rigまでご丁寧に出来上がっているではないか。



 ぐったりうなだれた真雪に声をかける。
 彼女は蒼白な顔を重たそうに持ち上げ、私のいるあたりを見つめる。
 その瞳は、ブラックホールのように光を失っている。

 私たちは譴責を受けた末、追放されるかもしれない。
 けれども、それまでは、できることがあるのだ。



 真雪はOPを出る私に、しぶしぶついてくる。
 私は採掘をする。
 真雪はその護衛をする。

 今までより慎重に。
 今までより的確に。

 目の前には鉱石があり、OPには生産ラインとBPCがある。
 一晩掘って、採掘艦をさらに3隻製造することができた。



 そうだ。

 私たちは無力なんかじゃない。

 忘れてはいけない。

 私たちは無力なんかじゃない。

 失敗にうなだれたあとは、同じ失敗を繰り返さないように、糧にして立ち上がればよいのだ。



 ……でも。
 BPCが尽きたらどうしよう。
 今はそれが心配だ。

2013年7月9日火曜日

あなたのZAZENはDPSに貢献しない。

 Nullの静かな宇宙での日々は、私の心を優しく癒してくれる。
 そこには競争も執着もなく、ただただ心のおもむくままに船に乗るという、私がPod Pilotになりたいと思ったすべてがあるのだった。

 DPSも Bounty も、DED品もFac品も、そこではたいした意味を持たない。
 ただただBPC(あるいはBPO)があり、鉱石の採掘と、そしてときどきそれを妨害する、ちょっと風変わりな(だからといってことさら憎らしいわけでもない)Drone。
 ときどき襲撃を目的とした船が迷い込んでくることもあるが、これも蚊のようなものだ。
 遠くに戦火が上がっているというリポートも漏れ聞くが、それでも、私の採掘艦の半径50kmは、だいたい静謐で平和だ。

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 しかし、このまま闘争のない日々に埋もれてしまうわけにはいかない。
 なにせ、誰も石なんて買わないのだ。
(できたものだってたいして売れないのだから当たり前だ)

 私はこの星系を借りている家賃を納めなくてはならない。
 家賃滞納すなわち退去。
 世の中お金よおカネ!

 そんな世知辛い実情が、じりじりと、私の情報伝達プラグを加熱させる。
 Wallet情報を開く。
 数日で数mil増えて、数十mil減っている。

 マイナスだ。
 超マイナスだ。
 マイナスを超えるマイナス。すなわち超マイナス。
 それってプラス? いいえ、マイナスです。

 マイナス概念のゲシュタルト崩壊を尻目に、私は私(と妹の真雪)の財政を立て直す必要を感じた。

 Nullは楽しいかと尋ねられたなら、私たちは間違いなく「もちろん!」と答えるだろう。
 しかし、Nullは儲かるかと尋ねられたなら、私たちは間違いなく「え、いや、まぁ、そういう人もいるらしいよね」くらいの、台風の後の田んぼに向かう用水路を伝う水のような非常に濁った答えを出すだろう。
(Caldari生まれの私が、どうしてオールドアースの、ましてその小国であるヤポネの糧食生産文化とその風景に詳しいのかについて、皆さんには教えられない)

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 この地で即金になるといえば、強盗か、Drone退治だ。
 強盗は無理だ。
 私は他者の介在を極力避けているから。
 いわばPod引きこもり。
 Caldari生まれでCaldariを避けるように出て、今ではNullで石を掘っていますが本当はブラスタ使いです。

 なにこの「おたずねもの感」。

 とにかく、強盗はお金にしづらいので、Drone退治です。
 簡易サイトもごろごろ浮いています。
 たまに数十milの賞金がかかっているレアなDroneBSも出現します。

 というわけで、これをちまちま倒していました。
 相変わらず、私は接近してパルスを照射(通称:近づいて殴る)。
 真雪ははるか彼方からDroneにて支援(通称:見守り係)。

 と、あるとき、サイトの攻略を終えたときにダイアログメッセージが出ました。

「なんだか、真雪が特殊なサイトへの入り口に関する情報を入手したらしい(意訳)」というもの。

 な・る・ほ・ど。

 これはなんだかオタカラのかほりが、ぷーんと匂い立ちます。かほりますよ。

 ということで、特殊なサイトの入り口情報がジャーナルに記載されているので行ってきました。

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 というこの日の日記は、このままぷつりと途絶えている。

 うん。
 覚えてる。

 翌日、実際にサイトに出かけて、Mother Drone(ウツボカズラのお化けみたいなの)を相手に、真雪とふたりだけで1時間くらいかけて戦って、たいした報酬は手に入らなかったんだよね。
 ZAZENの心で心身滅却しても、ろくにダメージが入らなくて、本当に苦労したんだよね。

 ひたすらひたすら、レーザーをピンピン撃ちつづけたあの退屈な1時間と、手に入ったカスカスのアイテムやらDrone鉱石やら変な箱やら。

 うん。

 だからきっと、公開しなかったんだよね。