2013年5月31日金曜日

ZAZEN Girl

 採掘。

 それがどれほど堅実な職業であるか、Caldariのスクールを卒業したとき、教官も言っていたものだった。
「NPC Corp にほとんどコネクションもない皆さんがこれから旅立つ場所で……」とかなんとか言っていたのではなかっただろうか(←ぜんぜん覚えてないんじゃないか)。

 私は、これから乗る「訓練用ではない」船のことで頭がいっぱいで、教官のセリフなどほとんど聞き流していた。
 ただ漠然と、これから全然知らない人々のいる世界に放り出される不安と、自由にあちこちを飛び回る権利を手に入れた喜びを自分が感じていることはわかった。
 そのなかで、採掘はとても手堅い職業なのだというセリフが、宇宙に放り出されたちっぽけな私の耳の奥で、なにかの指針のように残っていた。

 スクールを出た私はしかし、HighSec のアステロイドベルトに出かけて、採掘の最中に Ratting の味を知る。
(※Ratting:アステロイドベルトなどに、ランダムに現れるNPC海賊を退治すること。たいてい CONCORDから賞金が設定されているため、ささやかなおこづかいが稼げる)

 スクールの卒業祝いのごとくに与えられたDDの豊富な High Slotに武装と採掘装備とを搭載し、掘っては現れた海賊を Rattingしていた頃を、微笑ましく思い出す。
 満杯に集まった鉱石とLoot品をステーションに置いて、整頓する時間も惜しんでふたたびステーションから飛び出す日々。
 寝る間が惜しくて、IDSで大きい(ように見えているだけのことも多い)アステロイドに突進し、採掘機を作動させて眠ることもあった。

 やがて集まったものを売りさばくのに適切な場所について、もっといいところがあるのではないかと考え、最大の商都、Jitaを知り、そこにある圧倒的な商品の数々と取引の量に驚く。
 右も左も分からないまま、行商する冒険行を楽しむことを決めたのは、そのときだっただろうか。

 IDSで Ratting はさすがに無理だ。
 だから、私にとってあの頃、一番ステキな船はDDで、それさえあれば、どこまでも行けると思っていたし、どんなことだってできると思っていた。



 今、私が棲んでいる System は、たまに友人がやってきて(私のために、隠れたアステロイドベルトがないか調べてもらっている)、ごくまれにどこかからの旅人が通りかかり(どこへ行くものかも知れず)、そして野生化したDroneが、宇宙の海溝のような、いずことも知れぬ場所からやってくる。

 そして、それ以外は誰もいない。
 このだだっ広い星系で、私はたったひとり、何時間もアステロイドの鉱石に向き合っている。

 その宇宙はとても静かだ。

 孤独が主成分であるかのようなPodの溶液は私の肌と溶け合い、神経接続プラグを通じて宇宙がどれほど寂寞としているのかを教えてくれる。
 Mission地にサルベ泥棒が来ていた頃を思い出し、苦笑いをする。
 こんな場所ではさすがのPodパイロットでも人恋しくなる者が多いのではないだろうか。

 孤独に耐えられないもの。
 沈黙を守れないもの。
 静寂につぶされてしまうもの。

 Podパイロットといえども人間だから、心があって、孤独を好むものもあれば、そうでないものもあるのは当然のこと。

 あるものは仲間を作り、あるものは定住して根を張り、あるものは声を発することで、己の存在を誇示する。
「私はここにいる」「私は役に立てる」「私はこれほどすぐれている」と。

 この場所で、採掘機を回していると、もう、そんな世俗のことはどうでもいいような気持ちにさえなる。
 私を包むのは孤独に濡らす羊水だけだし、私の口から発せられるのは沈黙だけだし、私の耳に届くのは静寂だけだ。
 私がここにいてもいなくても世界には何も影響などなくて。
 それはまるでオールドアースの古い科学モデルに登場する、密閉されている毒箱に閉じ込められた猫(※)のように、観察者の存在によってのみ意味を成すのかもしれない。

 それはそれで、とても美しくて素敵だ、と私は思う。
 うっとりとする。
 孤独は甘美だ。沈黙は優美だ。静寂は耽美に私を誘う。
 孤雁であることが弱さであり、それに酔うことが毒ならば、私はその翼もろともどっぷりと毒に浸かっている。



 ふと、High Secにいたころ、JPCHでのやりとりにあった言葉を思い出す。
「そこに岩があるから掘るのだ」と、血気盛んな採掘師たちは言っていたものだ。
 System でたったひとり、目の前に岩があって、それに採掘ビームを当てている最中、私は思う。
 その思いや感覚は、なんというか、うまく言葉では言い表せない。

 ここは Null Secで。私は他人の血を流すためにここにいるわけではない。
 だからといって、お金のため、生活のためにここにいるのだろうか。
 そんなこともない。
 ここでは、どんなに高額のキャッシュも、たいした意味を持たない。
 やりとりされている物品は限定的で、自慢をする相手もいない。

 私と、宇宙があって、そこに岩があって、私はまるで宇宙と対話するように、岩を掘っている。
 
 エージェントからミッションを受けていた私は、心のどこかで採掘師たちを馬鹿にしていたのだと反省する。
 ただただ岩を掘って売ることの、無味乾燥なありようを、無意味で無価値だと心のどこかで嘲っていた。
 それを反省している。

 採掘は(Droneのような邪魔が現れなければ)ザゼン文化にも似ていて、私はそこで、己自身と向き合うことができた。
 彼らが採掘に惹かれるのは、この感覚がためだろうかと思う。
 もちろん、それを尋ねようにも、ここはあまりに孤独な宇宙なのだけれど。



 そのようなわけで、採掘を開始しました。

 EFTで確認すると、T3とVentureの採掘能力はさほど変わりません。
(Miner1つあたりの採掘能力はまったく別物ですが)
 ところが、Ratが問題です。
 Drone BS などが普通に飛んでくることがあります。

 しかし、船の装備を変えようにも、それができる場所は2ジャンプ先の星系。
 装備を変えて戻ってくる頃には、Ratがいなくなっているどころか、新しいRatになっている可能性さえあります。
(結果オーライとはこのことですね)

 ところが運良く、先住の友人に、BCを貸してもらうことができました。
 それも私の好きなブラスタ艦 Brutix です。
 実際に、BSクラスに攻撃をしてみたのですが、T3のMultifrequencyレンズを装着したパルスレーザより高い効果を発揮しています。
 やっぱり Legion は残念な子だったのかぁ。。。 と苦い思いを噛み締めました。

 しかし、ここは Nullです。
 弾薬を消費しても、それは容易に供給されるものではないのです。

 なのでふたたびEFTとにらめっこです。
 Brutix を採掘艦にして、Legion をRat用にして、宇宙空間に浮かべておいて、必要に応じて乗り換えればいいじゃない!
(※人の多い星系でこんなことをすると、浮かべてある船を盗まれるのでやめましょう)
 採掘能力もなかなかいい感じ、積載量も、Legionよりぐっと上がります。

 しかし、Jet堀をするにしても、IDSが欲しいところです。
 もちろん、BPCは持って来ていますが、そのIDSを作るためのミネラルがありません。

 ミネラルを集めるために掘るのですが、掘るための採掘艦を作るためのミネラルを作るための鉱石を掘っていて、その採掘艦を作るためのミネラルを集めるために掘っている鉱石を入れるためのIDSが作りたくて、そのIDSを作るためのミネラルがないからミネラルを集めるために鉱石を掘るための採掘艦を作るために掘っている鉱石を運ぶためのIDSを作るためのミネラルを作るために掘っている鉱石を運ぶためのIDSを作るためのミネラルが欲しいのです。
(禅問答か!)

 だめです。
 建設業がいきなり破綻しました。

 ああ。

 Null Secまできて、まさかまさかのIDSに泣かされようとは、いったい誰が想像したでしょう。
 ここはほんとうにへんぴな場所で、IDSはおろか、シャトルすらまともに売っている場所まで10ジャンプ以上移動しなくてはなりません。
(道中が安全であるかどうかなんて、昨日来たばかりの私に分かるはずもありません)

 と、逡巡するより早く、IDSがちょう最寄りのマーケットに現れました。
 私がFitを変更している、屋台みたいな、ちいさいステーションです。
 どのくらい小さいかというと、オールドアースにあったという「街のホッとステーション」程度の規模だなぁ、って感じです。
 ぜんぜん分からないたとえ話なんかはほうっておいて、とにかく、IDSが2隻、売りに出されているんです。
 とりあえず買いですよ買い! 値段だって、まっとうな値段です。買いですよ、買い!

 そのようなわけで、慌てて買い付けを成立させました。
 どうやら、WHとかから流れ出てくる人が、ときおりそうした「行商」をしているかもしれないそうです。

 当然、彼らは Blue じゃないわけですから、私たちに見つかれば撃たれるわけです。
 なんか行商しているハン・ソロ船長のようで素敵だなぁ、って思いました。
(※ハン・ソロ船長:オールドアースの2Dシネマに登場する、宇宙船パイロット。かっこいいです)

 これでIDSが手に入り、私の思い描いた建設業が、自己ループで破綻することなく、軌道に乗ることが可能になったのです。

 ログインしてから寝るまでずーっと掘っては石を運んで、とりあえずメンバから注文を受けている電気ミサイルと殴りブラスタ弾薬の製造を開始しました。
 「街のホッとステーション」の製造ロットはたったの2つ。
 ええ、これだけ作ったら、ほかには何も作れないので、安心して眠れます。

 採掘初日(移住2日目)から弾薬製造。

 シャトルもないようなこの場所で、いろいろ作ってはぼったくり価格で売りつけようと思います。



 ちなみに。
 Ratによる収益が10milほどありました。
 採掘できた鉱石は、推定価格で10milを切っています。

 Nullが儲かる、なんて、あなたはどこかで聞いたことがあるかもしれません。
 だからうちのCorpにおいでよ! なんて甘い誘いを受けたこともあるかもしれません。

 そんなのは嘘っぱちです! ただの詐欺ですよ、詐欺!

 お金を稼ぐなら HighSec のほうがよほど儲かります。
 なんなら Kamikazeでもすれば、一攫千金の夢もあります。

 こんなところで散々掘っても、HighSecでミッションしていた頃の足元にも及びません。
 RatでBSが出てきて、うかうか居眠りもできません。

 でも、お金なんかどうでもいい楽しさがあります。
 ISK が儲かる自慢とか、資産自慢、高級Fit自慢をしていた自分とはサヨウナラです。
 私は孤独に採掘し、ひっそり精錬し、シャトルやT1品を製造し、ぼったくり価格で売ることに喜びを感じる生産商人になったのです。

 誰かの作ったレールに乗って大富豪になるくらいなら、レールも何もない場所で貧乏人のままレールを作りたいです。
(でもでも、HighSecに戻ったら、モノより思い出より、お金が欲しいです)

 掘って、Ratを撃退して、精錬して、生産する。
 器用貧乏キャラで、本当に良かったと、心から思います。
 この場所でT2生産できる日が来るように、その設計図を思い描きながら、明日も掘ろうと思います。



 あと、High でくすぶってる真雪を、早いところ連れて来ようと思います。
(ひとつの船(できればT3)に、ふたつのPodを搭載できるなら、真雪と一緒に移動ができていいのに)



(※「密閉されている毒箱に閉じ込められた猫」:おそらく量子力学と呼ばれた科学系統の概念モデルに登場する、世にも不可解な存在として名を馳せた猫のことだろう)

2 件のコメント:

  1. 0.0で活動してるんですねえ~楽しんでいるようでなによりです。
    現在、私はリアルに忙殺されております。

    愚痴りたくなったらこっそりEVEに現れるかもしれませんw
    その時はよろしくお願いします


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  2. とらさん久しぶり〜!
    うん、なんかすごく寂しいところにいるよ(笑)

    あれこれ大変だと思いますが、たまに息抜きに戻ってくるといいと思いますよ。
    (^m^)

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